データドリブンの可能性

おせんべいを食べると外国人くる?こない?
外国人旅行者532万人増の期待。※1
オープンデータから見えてくるもの

 株式会社アイズファクトリー(東京都千代田区、以下「アイズファクトリー」)は、サービス提供しているオープンデータ用自動解析ツールbodaisを利用して訪日外国人旅行者数について調査いたしました。
 現在、経済構造の変革を促すデータドリブンイノベーションについては、経済産業省を中心として企業オープンデータの取組を模索している。今回は、各省庁や都道府県より発表されている各種データを用いたユニークな方法で、日本人旅行者に対する外国人旅行者の割合と公開データの関連に着目しながら、外国人旅行者の割合が多いグループと少ないグループの違いの分析を試みた。

データドリブンでの発見

外国人旅行者の多さは以下のデータ項目と関連がある。
・地域内での自動車利用や、ガソリン、部品などの支出
・鉄道、バスなどの公共利用額
・転入率、転出率の割合
・せんべいやだいこん漬けの消費量

 地域内移動における状態や生活環境が、外国人旅行者誘致の施策のヒントになる可能性が確認できた。分類されたグループ内で成功している地域の取組が「外国人旅行者誘致」の参考になり得る。公共交通の利用促進や利便性の向上は、地域住民にとって「住んでよし」という環境を作り、観光資源との連携をはかることが外国人旅行者にとっても「訪れてもよし」につながる可能性がある。
 日本人旅行者をひきつける各地域のポテンシャルを活用し、日本人旅行者数の1%を目標に外国人旅行者の訪問を増加させることが出来れば、532万人※1の外国人旅行者増加が期待できる。

【外国人旅行者の割合が多い地域】 沖縄県、京都府、千葉県、大阪府、東京都、神奈川県
 特徴: 公共交通の充実、自動車関連の出費が少ない、転入率が高い
【外国人旅行者の割合が少ない地域】 山形県、福島県、秋田県、新潟県、福井県
 特徴: 自動車利用。他県と比べて有料道路などの利用は低い。住民の転出超過が目立つ

利用した公開データ

 以下の779個の変数
1.年間訪日外国人数および日本人観光客数
 平成24年 共通基準による観光入込客統計 (観光庁観光戦略課調査室)/42都道県
 (ただし、富山県、福井県、京都府、大阪府、福岡県は上記データがない為下記のデータ使用)
 富山県 平成22年度 共通基準による観光入込客統計(観光庁観光戦略課調査室)
 福井県 平成24年 福井県観光客入込数 (福井県観光営業部観光振興課)
 京都府 平成22・24年 京都府観光入込客調査報告書(京都府商工労働観光部観光課)
 大阪府 平成22年 大阪府観光統計調査(大阪府府民文化部都市魅力創造局国際交流・観光課)
 福岡県 平成24年 福岡県観光客推計調査(福岡県商工部観光・物産振興課)

2.外国人国籍別宿泊者数の調査
 宿泊旅行統計調査報告書 平成24年1月~12月分(年の確定値)
 (観光庁観光戦略課調査室)

3.品目別家計年間消費金額
 平成24年 家計調査(家計収支編 総世帯 詳細結果表)
 (総務省統計局統計調査部消費統計課)

4.転入転出者数
 平成24年 住民基本台帳人口移動報告(総務省統計局統計調査部国勢統計課)

5.耐久消費財普及率
 平成21年 全国消費実態調査(全国 主要耐久消費財編 報告書掲載表)
 (総務省統計局統計調査部消費統計課)

6.産業別就業者数
 平成22年 国勢調査都道府県・市区町村別統計表(総務省統計局統計調査部国勢統計課)

県別日本人旅行者数と外国人旅行者数 現状と試算 (累計訪日外国人数はのべ人数)

1)【現状】現在の都道府県別旅行者 (日本人/外国人)
   訪日外国人数 のべ1,927万人  (※画像をクリックすると拡大します)

2)【試算】日本人旅行者数の1%程度の外国人旅行者を誘致した場合の効果 (現状1%以上の県はそのまま)
   訪日外国人数 のべ2,459 万人 (+532 万人)  (※画像をクリックすると拡大します)

■外国人旅行者の割合と地域データによるグループ

グループ別の訪日外国人数(国籍別)

― 外国人旅行者の割合が多い -
1. 都市型 ( 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、沖縄県 )

■このグループの特徴
・自家用車の保有率が少なくガソリンなど自動車関連の支出が少ない。
・電車運賃、バス代への支出が多い。
・転入率が高い。
・欧米と中国からの旅行者が多い。

 沖縄県を除き公共交通機関や都市間の交通網が発達していて外国人旅行者が利用しやすい環境にある。京都府や沖縄県は観光資源も豊富である。また、千葉県、東京都、大阪府ではレジャー施設や買い物目的の訪日客に域内観光との相乗効果が出ている模様。国内でも転入者が多い地域であり、「利便性」はやはり旅行者誘致には必須である。

■主な観光地
 埼玉県  川越の町並、長静渓谷、鉄道博物館、東武動物公園
 千葉県  東京ディズニーランド、マザー牧場、成田山、海ほたる
 東京都  東京スカイツリー、東京タワー、浅草寺、高尾山、明治神宮、秋葉原
 神奈川県 横浜中華街、箱根、鎌倉、江の島
 愛知県  名古屋城、リニア・鉄道館、徳川園、岡崎城
 京都府  清水寺、金閣寺、平等院、嵐山、二条城、東寺
 大阪府  通天閣、ユニバーサルスタジオ、大阪城、道頓堀
 沖縄県  首里城、国際通り、美ら水族館、今帰仁村

― 外国人旅行者の割合が少ない -
3. 中間型 ( 富山県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県、島根県、山口県、福岡県 )

■このグループの特徴
・バス、タクシーの支出が少なく、鉄道運賃の支出が多い。
・自動車の利用率が高く、有料道路などの支出も高い。
・オートバイの利用率も高く、駅前などの駐車場の利用も高い。

 グループ内での傾向に若干の開きがあるが、地域内での移動は活発である。観光資源のポテンシャルもあり、地域内の観光資源を海外にどうアピールしていくかが課題といえそうである。外国人旅行者への取組では福岡県が経年に渡り取り組みつづけ実績がでている。

■主な観光地
 富山県  黒部ダム、黒部峡谷、相倉合掌造り集落、富士城址公園、雨晴海岸
 静岡県  富士山、伊豆(温泉)、富士サファリパーク、御殿場
 滋賀県  彦根城、琵琶湖、近江八幡、比叡山
 奈良県  東大寺、奈良公園、法隆寺、長谷寺、薬師寺
 和歌山県 高野山、熊野本宮社、那智大滝、白浜
 島根県  出雲大社、松江城、足立美術館、温泉津温泉
 山口県  錦帯橋、秋芳洞、角島、松陰神社
 福岡県  キャナルシティ博多、太宰府天満宮、門司港レトロ地区

4.都市近郊型 ( 茨城県、群馬県、山梨県、岐阜県、三重県、岡山県、徳島県、香川県 )

■このグループの特徴
・自動車の利用率が高く、ガソリン代、自動車部品代などの支出が多い。
・有料道路への支出が最も高い。航空運賃の支出が最も低い。
・タイからの旅行者のうち約1割がこのグループへの訪問である。

 都市型地域の近隣県が多く、移動には高速道路等の利用が便利な地域が多い。徳島県、香川県は本州四国連絡橋の利用が支出高になっているものと考えられる。このグループでは、空港も港湾も持たない山梨県がターゲット国を絞ったプロモーションで効果を上げている。日本人には馴染み深い観光資源も外国人にくわかりにくいところもある。「食」や「体験」などわかりやすいプロモーションで外国人旅行者の興味を引き付けるのも施策のひとつになりそうである。

■主な観光地
 茨城県 筑波山、国営ひたち海浜公園、袋田の滝、大洗
 群馬県 草津温泉、尾瀬ヶ原、谷川岳、伊香保温泉、群馬サファリパーク
 山梨県 富士山、河口湖、山中湖、昇仙峡、ワイン
 岐阜県 白川郷萩町合掌造り、高山町並、新穂高岳、馬籠宿
 三重県 伊勢神宮、鈴鹿サーキット、志摩スペイン村、ミキモト真珠島
 岡山県 倉敷、岡山後楽園、岡山城、瀬戸大橋
 徳島県 鳴門海峡、阿波おどり、祖谷のかずら橋、眉山
 香川県 金刀非羅宮、直島、栗林公園、うどん

5.広域型 ( 青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、新潟県、石川県、福井県、長野県、鳥取県 )

■このグループの特徴
・電車運賃の支出が少ない、もしくは鉄道が整備されていない。
・自動車交通の依存度が高い。
・転出率も高く人口減が続いている。

 日本人旅行者も他グループに比べ少ない。交通インフラの不整備、もしくはインフラ活用ができていない。地域内の観光資源のアピールが国内向けにも力を出し切れていない可能性がある。交通整備には莫大な費用と歳月もかかる。先ずは観光資源の認知や活用の検討が期待される。「日本食」にも世界的な関心が出始めているので、「ゆっくりした時間」、「日本ながらの生活の知恵」等、地域内での生活の中で気がついていない「資源」が外国人旅行者を呼び込めるきっかけになるかもしれない。

■主な観光地
 青森県 ねぶた祭り、奥入瀬渓流、弘前城、白神山地、恐山
 岩手県 中尊寺、宮沢賢治記念館、小岩井農場、浄土ヶ浜
 秋田県 武家屋敷通り、乳頭温泉郷、男鹿真山伝承館、田沢湖
 山形県 蔵王温泉、山形城跡、羽黒山、山居倉庫、銀山温泉
 福島県 若松城、五色沼、大内宿、スパリゾートハワイアンズ、猪苗代湖
 栃木県 日光東照宮、中禅寺湖、鬼怒川、那須、あしかがフラワーパーク
 新潟県 高田公園、佐渡金山、燕温泉、瓢湖
 石川県 兼六園、白米の千枚田、輪島朝市、湯涌温泉
 福井県 東尋坊、氣比神社、永平寺、三方五湖
 長野県 上高地、松本城、善光寺、諏訪湖、奈良井宿
 鳥取県 鳥取砂丘、水木しげるロード、白壁土蔵群、三徳山三佛寺

■「せんべい、だいこん漬の消費量」との関連について
 交通環境以外のデータ因果では「せんべいの消費量」「だいこん漬の消費量」という因子も発見できた。分析からはせんべい・だいこんの消費量が外国人旅行者に負の要因として働くという結果であった。もちろん「おせんべいを県民が食べると旅行者が減る」ということではない

 表は消費金額が多い県と少ない県それぞれ10位までを表示したものである。地域の生産品目や食文化、気候などとの関連がある可能性がある。いずれも九州地域では消費金額が低いのはそれに代わる食べ物があること等も考えられる。データをそのまま鵜吞みにすることは、分析において大変危険なことである。このように一見しただけでは意味がわからない場合は、そのデータがもつ意味や背景、データ収集時の環境などにも目を配ることがデータサイエンスでは肝要である。

【結論】

 2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」開催が決まり、訪日外国人旅行者の増加が期待される。また、観光庁が推進しているビジット・ジャパンの効果もあり、2013年には史上初の1000万人を突破した。「観光立国」の推進体制を強化していく具体策として「観光地域づくり」があげられる。
 しかし、各都道府県一律の取組では効果が薄くなってしまう可能性もある。

 「地域の環境整備」、「その土地の暮らしやすさ」、「利便性の向上」等、同じ環境を持った地域で外国人旅行者の誘致が出来ている地域を見本にする。外国人旅行者を増加させるためには、観光資源だけでなく、特定の国へのマーケティング戦略で、効果的に認知を高める等の可能性が発見できた。今回のデータ分析からの分析効果(マイニング効果)といってよさそうである。
 また、観光地としてのアピールを海外に向け発信し認知を高めることも大切だか、訪れた外国人旅行者がSNS等を利用し「口コミ」をどれだけ活性化できるか等、仕掛けの検討も必要である。


■オープンデータの背景
 このように、発見された関連データの因果を掘り下げ、思いもよらぬ仮説にたどり着くことがビッグデータ時代に取組める要素のひとつである。社内にある部門間を飛び越えたデータや公共のオープンデータ、これから活性化される企業間のデータが新しいイノベーションの引き金になり国内産業を活性化していくことができる可能性がある。
 データの取り扱いでは、整っていないデータをきれいにする「データクレンジング」や、「非定型データ」を分析できるように「定型化」する等の作業が必要になる。正しいデータ分析の手順や準備が可能性のある結果を導ける。

■アイズファクトリーについて
 アイズファクトリーは設立以来、数値データ、テキストデータの解析とそれを応用できるシステム開発に特化した解析専門企業です。各種データを客観的に解析できることに評価をいただき先端データ解析に取組まれる企業をはじめ、新たにデータ解析に取組まれる企業へ人材育成、解析運用、解析ツール提供など、ビッグデータをワンストップでサポートする会社です

※1(各地に訪れる外国人旅行者のべ人数)